2020年5月15日金曜日

そのとき、フェリーが港に戻ってきた!

今は昔、一九七三年(昭和四十八年)の体験談で、新型コロナの大騒動で疲れきった体の芯、冷え切った心を温めてほしい。
スイスのボーデン湖畔にあるフェリーの船着き場まで、まだ遠く二百メートルは優にある。重たい旅行鞄を両手に提げ、出航したフェリーを見て呆然と岸壁にへたり込んだ、東洋から来た見知らぬ旅人のわたしのために、あり得ない・信じられないことが起きた。
ボーボーと二度汽笛を鳴らして急旋回し、逆エンジンをふかして、フェリーが港に戻ってきた!ドイツのフリードリッヒスハーフェン行きのフェリーが、フライトの都合で遅れてきた青年に気づいたのか、コンスタンツの港にまい戻ってきた。見ると、乗組員が船を降りてわたしに急ぎ駆け寄り、手押し車にカバンを載せて、乗船を手助けしてくれた。
スイスからドイツへ出迎えられてたどる心の旅路、自分は待っても他人を待たせない、船長の機転とスピード感のある実行力を見せつけられた。フェリー事件は、驚きと感動の瞬間だった。こうして、わたし(当時三十一歳)のドイツ留学生活が始まった。それから指折り数えて十二年の歳月を過ごすことになろうとは、予想外だったが充実していた。
今年成人式を迎えた青年たち、記念の卒業式や入学式をオンラインで迎えた学生諸君に言いたい。残念は不要、不安は無用、君たちは歓迎されるべき存在、未来時間のキャリアだから、いつまでも家に引きこもる必要はない。コロナ禍にしり込みしても、一時生活費に窮しても、希望(偲んで待つ心)まで捨ててはいけないよ。
日本では「待てば海路の日和(ひより)あり」。中国では「天網恢恢」(てんもうかいかい)と言う(「老子」73章)。天は網を広げ、君たちを助けて一人も漏らさない、急ぎつつ待つ心と即実行の備えさえあれば、フェリー(大乗小乗を問わない、仏心の乗り物)は遅れてきた青年の君たちの元へ、いつでも急旋回し戻ってくる。5月17日更新
Shigfried Mayer(宮村重徳)

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