2020年7月31日金曜日

非接触型エコノミーへの転換点

昨今の新型コロナウイルスの第二波となる感染拡大に伴い、不安になってパニックに陥る前によく考えてみよう。経済活動の最前線で日本人が好む現金支払いを止めて順次キャッシュレス化することで、リスクの軽減はあり得る。3密を避けてソーシャルディスタンスを保持しても根本解決しないなら、見えざる感染経路と貨幣決済の因果関係を調べ直す時ではないか。紙幣や硬貨は日常の経済活動に欠かせないから、主たる原因でなくても間接的に重要な作用因となっている可能性は誰にも否定できない。
 国別のデータ管理に信憑性の問題はあるが、キャッシュレス化が進んだ中国や韓国では感染拡大が抑えられているとのデータがある。例えば、「現金決済に関する公衆衛生上の問題点の整理」を論じた福本勇樹氏(ニッセイ基礎研究所の金融部門、主任研究員)の最新レポート、現金の付着物に関する実証研究が参考になる[1]
 お札が福沢諭吉から渋沢栄一にイメージチェンジしても変わらない。神仏を持ち出す前に、金回りの拘りや愛着を捨て、手垢のついた現金な関係におさらばする、非接触型エコノミーへ転換するいい機会ではないか。率直な諸君の意見を拝聴したい。
8月10日更新




[1] https://www.nli-research.co.jp/report/detail/id=64523&pno=1?site=nli

2020年7月3日金曜日

目から鱗の新実在論、わたしのマルクス・ガブリエル評

 マルクス・ガブリエルは本気だね。問題作『なぜ世界は存在しなのか』の真骨頂は、新実在論の立場から繰り広げられる「意味の場」論、すべてを包括する世界像が否定される。深い感銘と衝撃を受けた。倫理に踏み込む哲学本来の可能性に身震いしている。もう一冊の『「私」は脳ではない』と合わせ、今後を方向づけ関心を決定づける書物となったことは間違いない。[1]
現実と仮想の区別がつかない世代に向けて語るガブリエルの挑戦に半端ない。難解な論争もお手の物、身近な事例を繰り出しわかりやすく核心を解き明かす。「事実性」の理解と解釈にぶれがない。ポストモダニズム論争(相対主義)に終止符を打ち、思考の刷新を迫る勢いがある。新実存主義は、君たち若者世代に「自由の原点」となるのは間違いない。
「意味の場」は着け刃でない。自然主義(自然科学的・物理学的分別)に判断を任せない(決定論的唯物論や専門家集団に判断を丸投げしない)、さらに自由市場の付加価値(落札者の指)次第に関心を貶めない、フェティシズム(呪術主義)に回帰しない、宗教学・宗教史学・宗教社会学本来の課題を、21世紀に於ける「精神の哲学」として最適化するために、新実在論はまたとない頼もしい足場・ワクワクの跳び箱となる。
ガブリエルは、ハイデガーの「存在神論」の再評価でわたしを驚かせただけでない。ヘーゲル弁証法哲学の精神やシュライエルマッハーの宗教論(無神論?)の読み直しにまで迫り、今流行りの脳科学に及んでは、ニューロ還元主義(倫理的には構築主義)に「私」はいない、先端科学の構築主義に倫理がないとずばり指摘する。「私」を神と繋ぐ精神不在の事実性に着目させ、その源流をマイスター・エックハルトに辿る処は興味深い。禅思想との接点・共感ポイントもあり見逃せない。
ガブリエルは口数多いが、ズバリ核心に迫る。矛先は、相対主義や自然主義の批判に留まらない。「上に向かう野蛮化」と「下に向かう野蛮化」に触れ、先端科学の担い手(素粒子物理学者たち)の物質主義(唯物論的決定主義、倫理の欠落)を批判して、人間の自由(シェリング)を主張する。奴隷意志(ルター)から自由意志への切り替えしもお見事、目から鱗の新実在論(別称で新実存主義)には想定外の収穫がある。
新実存主義には異論もある(例えば岡本裕一郎氏)。従来の哲学概念の枠組みを壊し、哲学者の系譜を無視し系列をぶった切るように見えるのは、乱暴だが必ずしも恣意的とは言えない。自然科学の急激な発展を尻目に、後手に回るだけの人文科学を総動員して再編しようとするから、見た目のちぐはぐは承知の上か。荒業の外科手術に文句は言えない。あえて超域文化的に横断し挑戦的に思考する論争スタイルのせいか。矢継ぎ早の論点移動も布石同然、グランドセオリーの賛同者・飛び石を埋める仲間を広く募るためだろう。
それより、失われた「資本主義の精神とプロテスタンティズムの倫理」(ヴェーバー)の関連でこそ、ガブリエルの挑戦は最大限の効力を発揮するのではないか。踏み込みが足りないのが惜しまれる。あくまで私見であるが、「資本主義の終焉か人間の終わりか」を問う「未来への大分岐」点に立って、ゼロから自分を見直し実在思考へ仕切り直しする、時代刷新の狼煙また証左としたい。
若者たち、上記二書の邦訳書は分厚いから、インタビュー録や小さめの講演集でもいいよ。狭隘な自分を踏み超えるアセンション、アップグレードのチャンスとするよう、一読を勧めたい。ドイツ語原書は一括して発注済み、わたし自身の本格的評価は次回以降(晩秋から年度末まで)のお楽しみ。[2]
Shigfried Mayer(宮村重徳), copyright © all reserved 2020, 理解社会学研究所所長、法政大学大原社会問題研究所嘱託研究員、㈱岡本カンパニー講師




[1] マルクス・ガブリエル『なぜ世界は存在しないのか』、清水一浩訳、講談社選書メチエ6662020年;『「私」は脳ではない―21世紀のための精神の哲学』、姫田多佳子訳、講談社選書メチエ7102019年。
[2] マルクス・ガブリエル『世界史の針が巻き戻るとき―「新しい実在論」は世界をどう見ているか』、大野和基訳、PHP新書1215;マルクス・ガブリエル、マイケル・ハート、ポールメイソン共著『資本主義の終わりか、人間の終焉か?未来への大分岐』、斎藤幸平編訳、集英社新書、2019年。