2020年1月9日木曜日

宇宙の過去問は神の数式で解けるか(その二)

通常、「数学的な美」は対称性(シンメトリー)に於いて言い表される。時間と空間は同じものと理解したアインシュタインの一般相対性理論がファイマンの念頭にある。今日究極の「神の数式」と呼ばれているのは、ポール・ディラックの方程式(Dirac Equation)である。「真空」の定義が斬新だ。
「真空とは、負のエネルギー電子が完全に満たされた状態」。通称空孔理論(Hole Theory)は、ディラック海の空孔が正のエネルギーを持ち反粒子に対応すること、真空中の空孔が光を吸収して正エネルギーに変換され、空孔だけが後に残る現象である。今日では、アンダーソンの発見以来陽電子として知られる。魔訶不思議な現象だが、数式に説得性がある。電子の持つ回転対称性と四次元時空が満たすローレンツ変換の相対性を同時に成り立たせるゲージ場での相互作用論、反粒子を含む最新の素粒子理論の特異点に注目すると、電子に対して光子(フォトン)の重さ(質量)はゼロである。


i γδ/δt Ψ + i Σγδ/δx Ψ= mΨ 、変形すると

i γδ/δt Ψ mΨ= 0 、自然単位系では
 i γμθμΨ(x) mΨ(x) 0、差し引きゼロ

「数学的美」に関する討議は、その後「自発的対称性の破れ」を指摘した南部陽一郎以来新たな局面を迎える、立てた鉛筆が倒れる処にヒントがある。それ以来、虚数を実体化する計算言語(言葉)に、対称性を破る非可換なゲージ対称性(global and local symmetry on the gauge theory)が一般に認められるようになった。ゲージは、元々測量概念である。エントロピー的否定総和から自発的対称性の破れが生じ、真空を満たす星間物質(マイナス因子)の解明に伴い、大局的且つ局所的なゲージ(強弱の判断尺度)を合わせ持つ場の運動論、神的数式のダイナミズムが発見された。
Ψ(プシー)はディラック場(スピノルの場)、m(マス)はΨの質量、左辺に時間と空間の微分項を持ち、4成分あるγ行列の値がどう変わっても全体量はいつも同じ(=0、エネルギー保存則)、量子力学的対称性乃至電磁気的相対性理論が成り立っている。ライプニッツのモナド論(無限小による微積分)に始まり、ニールス・ボーアの相補性理論を経て、近年続く新発見(「神の粒子」という異名を持つヒッグス・ボソン)に、人文科学(哲学宗教)が追い付かない。宇宙科学の先端技術者たちは神を論じ、三人の博士たちに負けず劣らず、いよいよ「神の数式」に魅了されて今日に至っている。それでも、宗教と民族の利害をめぐる争いごと(果てしない資源戦争)が収束するかどうかは、まったく予断を許さない。
運動のカテゴリーは、修士論文以来のわたしの追求課題である。過去三十年間に学習した経緯と成果から、二〇二〇年度は数多い形而上学的紐づけ(ゲージは判断尺度)を二択に絞り、「言葉と無」について思索し実践する。年頭所感なので、これ以上むずかしい話はしない。『黒ノート』で揺れるハイデガーの宗教哲学的読み直しも、「人間の神的根源」に満足せず、「民族の神的根源」に迫るアーレントの問い返しも、トーマス・マンのクルル的幻想形式の世界もその延長線上にあり、頭上に繰り広げられる光と闇のドラマトロジーは諸学を巻き込む未曽有の渦となっている。いずれも量子力学的基礎レベルの過去問の対象であることを免れない。
しかし、科学者たちはほんのわずかばかりを覗き見しているだけで、実際は「振動する紐」で奏でられる音のルートを知らず、大宇宙の壁(グレートウォール)に響く不立文字の囁きなど聴いていないか関心がない。ニュートンが告白して言ったこと、大海原の砂浜で貝殻を拾い集める少年のように、ハンブル(謙虚)であることが求められる。情報科学に於いても然り、データ主義を優先し破れを繕うことよりもっと大事なこと、文化人類学の関心枠に付かず離れず、宇宙論的視野で理解のカテゴリーの刷新と調整が必要となる。
2010年10月に本ブログを開設して10年目、2020年の今も「理解社会学」の看板を外さないのは、特殊相対性の理由がある。諸動機の布置連関から視覚的にイメージされる星座のフレームにとらわれず、ピタゴラスの聖数(数学的美)にも惑わされず、複利計算で怪しく色めくユダヤ的知性の秘密:「神と貨幣」(ジンメル)から目を離さないためである。移民系も例外でない。自らの功績に報いを求める武帝に応える、「無聖」(ダルマ)の一喝を聞き逃さないようにしたい。異論・反論があれば傾聴したい。
1月22日(火曜日)更新
Shigfried Mayer(宮村重徳), copyright © all reserved 2020, 理解社会学研究所所長、法政大学大原社会問題研究所嘱託研究員、㈱岡本カンパニー講師、東京大学大学院研究生志願中

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