2013年12月16日月曜日

数学的裁断の技、主観の虚空に確かさ(尤もらしさ)を刳り出すか

「特定秘密法案」の成立で足元が揺らぐ、不透明な民主国家存亡の浮世に、自分の決断を間違えないようにするには、どうしたらよいのか。凍るような寒さに暖を取る意味で、久々に邦書の読書三昧を満喫してみた。小島寛之氏の『数学的決断の技術』(朝日新聞出版、朝日新書、創刊七周年、20131230日刊)。これは師走前に、つまり30日の刊行日を待たずにいち早く出版された話題の書。帯には、「論理的思考が苦手な文系向け」とあるから、入門用手引き書である。
仕事・ギャンブル・さまざまな迷いごとで途方に暮れる岐路の毎日、私たちが決断を迫られ迷った時の助け舟も、(私の譬えでいえば)生地がなければ裁断のしようがない類のデータ(主観の虚空)から、「確からしさ」を刳り出し、四種の服に仕立てて見せるから面白い。いわば数学的裁断の技を教えられる点で、醍醐味十分である。
著者の理論的支柱は、ランダム事象を推計統計学的に頻度数で確率を割り出す正統派と異なり、統計学的には長く異端の系譜とされてきた「ベイズ確率」(Bayesian Probability)と「ベイズ推定」(Bayesian Statistics)にある。ドイツ語でこれは、Bayesscher Wahrscheinlichkeitsbegriff という。イギリスの長老派教会の牧師で数学者トーマス・ベイズ(Thomas Bayes, 1701-1761)の「主観格率」は、信念や信用・信仰で形態の違いを問わず、一見カオスでしかない主観的ビッグデータから、「尤(もっと)もらしい」モノの働きを導き出す画期的な方法(「最尤法」さいゆうほう、the Maximum Likelihood Estimation, MLE)として知られる。今日では斬新なコンピュータ技術を使った医療分野などで、幅広い応用研究事例を生み出している。(数式は難しくないが、説明すると長くなるので割愛する。)
経験妥当な法則を求めるにしても、主観的意味の探求(行為の格率論, Maxime)を忘れてはいけないと教えたのは、ヴェーバーである。その理解社会学とは全く別の仕方で、ベイズは「主観的確率」(Subjective Probability)のノーハウを教える。意思決定の基準として、四つのタイプが挙げられている(自分の思考の癖が分かる、そこは読んでのお楽しみ)。「期待値」云々の論証は蓋然性を導き出すための工夫、経済学を含む社会学自体の課題である。ケインズの経済理論だけでない、パスカルの神存在証明をも取り上げて、ずばり期待効用理論の最大値に「賭ける」ものと見破られる。パスカル教徒も真っ青に違いない。実に痛快である。心理物理的な発想に基づくブレンターノの「限界効用理論」には否定的だったマックス・ヴェーバー(学会)も、これなら納得して取り上げてくれるかもしれない。
転換の世紀を乗り切るために、一読をお勧めする。君たちが真にビッグデータサイエンティストたらんとすれば、パスモの屑情報の処理などかなぐり捨てて、生身に迫るこのような数学的アプローチに学んだらいい。収穫は大である。(個人的には、牧師にもベイズのような人がいたということは、驚きであり感無量である)。
追記: 小島氏の評価については、全部を読んでみないとわからない。主観的確率と道徳的格率の違いについては、別途に論じる。12月22日更新

Shigfried Mayer (宮村重徳), copyrights © all reserved 2013, the Institute for Rikaishakaigaku

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